マハゼの特徴や、「江戸前ハゼ復活プロジェクト」がおこなっている「マハゼの棲み処調査」の内容とその結果からわかったことなどについて、ハゼと海の環境の関係などの研究をされている古川恵太先生による連載記事などでおしらせしていきます。
古川恵太先生プロフィール
古川恵太先生は、国交省の国土技術政策総合研究所や、オーストラリアの海洋科学研究所、民間財団の政策研究所などで海の環境とその再生方法について30年以上研究をしてきました。今も、笹川平和財団海洋政策研究所の特別研究員やNPO「海辺つくり研究会」理事長、東京海洋大学や徳島大学の客員教授を務めながら、海の保全・再生に関する研究や市民活動への支援を続けています。「江戸前ハゼ復活プロジェクト」では、「マハゼの棲み処調査」のデータを用いて東京湾におけるマハゼについて研究し、多くの学会報告や論文発表をしています。
2022年9月
マハゼの棲み処調査 第10回
2022年第1報
マハゼの棲み処調査2021のふり返り
本年度も7月1日より、マハゼの棲み処調査が開始されます。これを機に、昨年の調査結果をふり返りたいと思います。調査が始まってから10年目となる2021年度の調査では、参加者数892人(延べ)、490ヶ所の地点(延べ)から11,000件をこえるマハゼの全長データが集められました。釣果の平均時速は10匹/時を下回り、平均成長速度もやや低めでしたが、以下に書くように、夏生まれ群の存在が確認されました。
2021年のハゼ釣りがスタートしたときは、渋い状態でした。6-7月の平均全長は8-9cmで過去最低レベル、9月になっても全長平均は10cmをこえず、10月にようやく11cmになりました。
しかし、その後11-12月には、平均全長が13-16cmとなり、シーズン終わりに向けて盛り上がりを見せました。数は多くないものの、年明けには鶴見川河口などで、20cmをこえる大型ハゼも報告されています。これら大型のハゼは、前年の夏生まれ群が増えてきたためと思われます。
採取されたすべての地点のデータを、月ごとに整理し、その大きさ分布から、系群に分けるコホート解析を行いました。こうして分けられた系群は、生まれ月のちがいを表しています。
まずは、2021年の調査データの全体の表を見てください。6月のシーズン当初は若干のヒネが居たものの、全長8cmのデキが中心でした。この群は● 2020年冬(12月)生まれ群と考えられます。ヒネは● 2020年夏(6月)生まれの群(6月に13cm)であり、年度後半には、● 2021年夏(6月)生まれ群(10月に5cm)が見られています。
これをコホート解析したのが下図です。各月のデータが小さいものが上、大きいものが下になるように人口ピラミッド形式でマハゼの全長分布が示されています。山のピークがコホート(系群)に対応しています。6-7月に見られた前年夏生まれ群の割合が、8-9月には低くなり、10月以降再び現れています。また、12月のコホートには、3つの異なる系群が明瞭に分けられました。
2021年の夏生まれ群が明確に見えたのは、2021年の8-9月の気温が例年より1-2°C低く、東京湾に広がる貧酸素水塊が一時的に縮小したことと関係があるかもしれません。しかし、その後10月には大規模な青潮も発生しており、今後のマハゼの分布、成長に対しては予断を許しません。マハゼの復活に向けて、今年も調査へのご協力をよろしくお願いいたします。
2022年8月
マハゼの棲み処調査 第9回
東海大浦安サイエンスクラス ハゼ釣り調査とふりかえり(2021年8月22日、8月29日、2022年2月27日)
今年も東海大浦安中学校・高等学校のサイエンスクラスの皆さんと境川でのマハゼの棲み処調査を行いました。今回は、境川東水門周辺(親水テラス)を上流域とし、明海の丘公園周辺を下流域として、2か所でマハゼの成長・移動を確認しました。
調査結果は、別途行われた親子ハゼ釣り教室のデータと合わせて、上流域と下流域それぞれで約1ヶ月での変化がとらえられました。マハゼの全長を系群に分けるコホート解析を行うことで、下流から上流に向けて成長しながら移動している様子が示されました。ただし、下流域では貧酸素水塊の影響(8月に小型個体がいない状況)も懸念される結果となりました。
2022年7月
マハゼの棲み処調査 第8回
大田区環境マイスターの会 ハゼ釣り調査
(2021年9月16日、10月5日)
多摩川河口の環境変化を自主的にモニタリングし、東京湾環境一斉調査などにもその成果を発表していただいている大田区環境マイスターの会のメンバーが、マハゼの棲み処調査として、9月と10月の2回の調査を実施していただきました。
9月16日の調査では、会員9名+外部参加2名の計11名で、14:30~16:30の2時間の調査を行い、マハゼ73匹、シマハゼ1匹、ウグイ1匹が釣れ、マハゼの平均全長は92mmでした。
当日は、強い風が吹く中、堤防の背後を釣り場として、快適に調査ができました。参加者全員が釣果を上げ、比較的型が小さく今年春に生まれた個体が多かったようです。個体の全長計測には、専用の物差しを工夫し、効率よく計測されていました。
10月5日の調査では、会員6名+外部参加2名の計8名で、14:30~16:30の2時間の調査を行い、マハゼ159匹、平均全長は97mmでした。速報値としてデータを確認したところ、9月には100mm未満のマハゼが約7割を占めていたものが、10月には、約6割に減少し、最大で145mmのマハゼの釣果もありました。
多摩川河口周辺で、1ヶ月で10-20mm程度、確実に大きくなっていることが確認されるとともに、10月に60mm以下の小型個体の加入も認められ、多様な産卵・発生のパターンがあることが示唆されています。
2022年6月
マハゼの棲み処調査 第7回
江戸川放水路調査
(2021年6月21日、7月25日、9月25日)
江戸川放水路は、東京湾におけるハゼ釣りのメッカとして河岸から「おかっぱり(岸から投げづりやのべ竿での釣り)」や「立ちこみ(水の中に入って釣る)」、桟橋からの釣り、ボート釣りなどが行われています。江戸川放水路の新行徳橋から妙典橋の間で6月、7月、9月にボート釣りにより深場・浅場の様子を探ることとしました。
6月21日:水深0.8~4.2mの地点で調査し、川底直上の水温が24.5-24.8度、塩分が26.7-27.6、溶存酸素濃度が3.4-3.6mg/Lであり、海水が十分侵入してきていました。貧酸素状態になる直前の厳しい状況であったと言えます。3名の釣果は、約5時間で90匹で、4mの深場と1mの浅場において釣果が上がったものの、アオノリなど藻類が広がる1.1-1.5mの場所では、ほとんどマハゼがかかりませんでした。代表的なコホート(系群)として、56mm, 78mm, 130mmの3つの系群が確認されました。
7月25日:水深0.5~2.5mの地点で調査し、川底直上の水温は31.0-31.3度、塩分が22.2-3、溶存酸素濃度が5.0-7.8mg/Lでした。1名による調査で、約4時間で45匹あり、各地点の釣果の差は大きくありませんでした。代表的なコホート(系群)として、82mm, 95mm, 137mmの3つの系群が確認されました。
9月25日:水深2.1~4.0mの地点で調査し、川底直上の水温は25.8-26.0度、塩分が27.3-28.0、溶存酸素濃度が5.4-6.6mg/Lでした。1名による調査で、約4時間で77匹の釣果があり、浅場の方がやや小さめのハゼが居るように感じられたことと、エサへの食いつきが良い印象がありました。代表的なコホート(系群)として、65mm, 91mm, 140mmの3つの系群が確認されました。
6月の時点での56mmの系群は、同年の2-3月生まれ、130mmの系群は1年前の9-10生まれと推定できます。そうすると、江戸川放水路においては、ふ化後4ヵ月から9ヵ月後の個体が生息していることとなります。深場には海水が侵入してくる感潮河川ですが、浅場の存在から、貧酸素状態をかろうじて免れている場となっているものの、夏場は水温が30度を超える状況が発生していることも分かりました。また、9月の65㎜の系群は、新たな産卵群が加入してきたことを示していると考えられ、これらのその後の動向が注目されます。
2021年9月
マハゼの棲み処調査 第6回
2021年度マハゼの棲み処調査が始まりました
(速報1:江戸川放水路)
本年度も7月1日より、マハゼの棲み処調査が開始されました。前報の「2020年の調査結果速報」でお知らせしたように、東京湾全体で見ると、3つの系群があるようです。今年は、どのような系群がいるのか江戸川放水路で6月21日に調査をした結果の速報をお届けします。
改めて、昨年度の調査結果をコホート解析し、主な系群を整理すると、2020年の冬生まれは、1月ふ化(6月に全長約8cm)であり、それを中心に、大型の前年のおそ生まれとして2019年の11月ふ化(6月に約11cm)、小型の2020年のおそ生まれである3月ふ化(6月に約5cm)の3つの群に整理されました。
6月21日は、6時半より2時間、江戸川放水路行徳橋下(深場)と、東西線陸橋下(浅場)で調査をしました。深場では、水深2.8-4.2m、水温24.8-24.9度、塩分27.2-27.6、酸素量3.4-3.8mg/Lで海水が差しこんできているものの、貧酸素が若干進んでいる様子でした。浅場では、水深0.8-1.5m、水温24.2-24.8度、塩分26.6-26.8、酸素量3.6-3.8mg/Lで、水の色はいずれも黄土色がこい赤潮状態でありました。
水質的にはほとんど差がない深場と浅場でしたが、釣果には大きな差があり、浮泥がたまっており、7cm程度の小型のハゼが中心だったものの、大型(14cm)も混ざりました。浅場では、若干型が大きくなる(8cm)とともに、12cmをこえる良型も多く見られました。
このデータをコホート解析すると、3つの系群があり、それぞれ56mm、77mm、130mmでした。これを昨年の値と比べてふ化時期を推定すると、3月ふ化、1月ふ化、9月ふ化群にあたります。江戸川放水路では、2020年秋口に小型ハゼがわき、その生き残りが2021年のハゼ釣りに反映されることが期待されていました。
2020年から2021年にかけて冬の冷えこみが厳しく、2020年のおそ生まれ群の生き残りが危ぶまれましたが、2-3月の気温が高かったこともあり、順調に成長しているようであることが今回の調査で見えてきたことは、明るいニュースと思います。
今後、江戸川放水路で、この3つの系群がどのように成長していくのかを追いかけていきたいと思っています。
2021年8月
「江戸前ハゼ復活プロジェクトへ参るぞ!」の動画を
掲載しました。
2021年3月
マハゼの棲み処調査 第5回
2020年度の調査結果速報
2020年度は、新型コロナウィルスの感染が広がり、自由に釣りができなかった方々もいるのではないかと思います。そんな中、同年度の「マハゼの棲み処調査」では、2020年6月27日から2021年1月19日までのマハゼの全長データが、5,464匹分、集まりました。調査に参加した人数と調査データの登録回数をかけ合わせると調査者数599人、延べ調査地点数は300地点となり、2012年からの調査以来の最大規模の調査となりました。
2020年度は、今まで報告されていなかった新たな地点での調査データが得られました。特に、京浜運河、東京港、東京内港(運河部)、浦安市境川、江戸川放水路などでは、多くのデータを得ることができ、大変に意義のある調査となりました。改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。今回は、そんなデータの一部をご紹介します。少しわかりにくいかもしれませんが、お許しください。
まず、一人が1時間に何尾のハゼを釣るかという「時速」を計算して見ると、今年は、6.5尾/人/時間でした。これは、ここ数年の値としてはふつうですが、調査を開始した2012年から2016年位の傾向とくらべると半減していて、心配です。同様に、毎月あたりのハゼの成長量を見てみると、大変成長が悪かった2019年度と比べても、今年はさらに悪かったように見えます。ただし、この値は、平均値から推定した仮の値ですので、今後、くわしく検討してみたいと思います。
2020年度の調査データを、全てまとめて集計すると、上の表のようになります。2020年の冬生まれの群と見られるコホートが中心にありますが、それより小さい、2020年の遅生まれとみられる群と、大きな2019年の遅生まれの生き残り(ヒネハゼ)とみられる群があったようです。
2019年度のコホート解析の図に、2020年度の月別の単純平均の値を重ねてかいて見ると、2019年度に比べて、2020年度の前半と後半で成長がにぶくなっているように見える部分があります。これらは、2019年度の遅生まれ群と、2020年度の遅生まれ群がえいきょうしている可能性があります。今後、調査地点毎のデータ解析と共に、こうした遅生まれ群の変化に着目した解析を進めていきたいと思っています。
引き続き、調査へのご協力・ご注目をお願いいたします。
なお、解析を待てない、自分で解析してみたいという方々のために、生データを添付いたします。以下の表をクリックして、データにアクセスして下さい。
2021年1月
マハゼの棲み処調査 第4回
マハゼのすみかの回復について
「マハゼの棲み処調査」では、ハゼの生態(どこで生まれて、どこで育つか)を明らかにしたいと思っています。でも、それだけではなく、究極の目標として、マハゼの棲み処を作り出し、東京湾のマハゼの数を回復させるということを考えています。新たなマハゼの棲み処ができれば、そこがまた新たなハゼ釣り場にもなりますよね。
マハゼが大きくなるとともに移動することは、第1回目で説明しました。マハゼたちが移動する理由は、色々考えられますが、そのうちの一つが食べ物と温度です。典型的な冬生まれのマハゼを例に、具体的に見てみましょう。
マハゼが釣れる場所は、食べ物がいっぱいある場所です。例えば、その年生まれのデキハゼは、川を少しさかのぼった浅い場所(あさせ)に集まります。岸側にある木のくいやヨシ原、ていぼうの岩のスキマはそうしたエビ・カニの棲み処になっており、そこで産卵したエビ・カニの子供たち(浮遊幼生と言います)が流れに運ばれて集まる場でもあります。この時期は春先ですから、流れがよどんでいると水温が高くなり、マハゼの子供たちの成長も良くなります。
次に集まるのが、川を下って海に出る直前の河口域の砂場です。ここには、砂の中にゴカイがいます。ゴカイは、海底に大量に生息し、つぎつぎと新しい命をつないでいくので、たくさん食べて大きくなりたいマハゼのエサとしては最適です。また、この時期は夏場にあたりますから、少し水深があるところで、水温が高くなりすぎないということも大切です。
大きくなったマハゼ(落ちハゼ)は、深場に移動します。それは、巣穴をほって卵を生むためと考えられています。その場合には、あまり移動しなくなりますから、エサが流れてきたり、エサとなる小魚が泳いできたりする、流れがよい場所、いわゆる「潮通しのよい」ところがすみかとなります。この時期は、秋から冬になりますので、実は深い場所の方が水温が暖かいのです。
ちょっと待ってください。江戸前ハゼ復活プロジェクトでは、冬生まれだけでなく、春〜夏生まれのマハゼ達がいることを示してきました。では、マハゼ達にとってのすみかは、どのようにしたら作れるでしょうか。その一つのヒントが、人の生活の近くにある運河です。
運河に流れ込む水の中には、暖かい水が少なくありません。下水処理場を通ってきた水、発電や工場の冷却水などは、周囲より暖かい水です。また、運河近くのビルや公園の木々は水面に影を作り夏場の暑さをやわらげます。運河の曲がり角や橋げたの近くでは、流れがうずとなり、海底に砂やどろがたまって浅場ができます。
こうしたところに、エビ・カニがすめる場所を作り出せれば、マハゼのエサが確保できますし、ブロックや石などですき間を作ることで、巣穴として利用してもらえる可能性もあります。
マハゼのすみか調査を通してわかってきたことを参考にして、みんなで工夫しながら、新たなマハゼのすみかをつくっていきたいものです。
2020年11月
マハゼの棲み処調査 第3回
2019年度までの調査結果
「マハゼの棲み処調査」は、ハゼの生態(どこで生まれて、どこで育つか)を明らかにしていこうというのが、大きな狙いです。そのために、前回ご説明したように、マハゼは成長期には1ヶ月で1.5cm程度大きくなることを利用します。例えば、東京湾のおくにある浦安市にある境川でのデータを見てみましょう。
境川は、旧江戸川から水門を通して東京湾にそそぐ全長約5kmの都市河川です。浦安水辺の会の人たちが、親子釣り教室や、夏のボランティア体験などを通してマハゼの棲み処調査に協力してくれています。2019年には、7月の終わりと9月の半ばに高洲橋周辺で調査が行われました。その結果を、グラフに表すと下のようになっています。横軸は釣ったマハゼの全長、縦軸はその釣れた数です。
7月のデータを見てみると、4つの山が見えます。これを難しい言葉で「コホート(系群)」と言います。イメージとしては、生まれた日が近い同級生たちです。それぞれ全長が、およそ6cm、8cm、10cm、14cmのところに山が見えます。これが、45日後の9月には、2つのコホートに集約されています。その大きさは、およそ9cm、11cmなので、7月の②、③が、9月の①、②に対応していると考えられます。
すなわち、7月に居た小さなハゼと大きなハゼは、別のところに移動してしまい、中くらいのハゼが居残っていると読み解くことができます。そして、その小さなハゼの行き先として、境川上流部(東水門近くの水域)が考えられます。それは、今年の8月に東水門と高洲橋の2か所で調査した結果、6cm程度の小さなハゼやそこからやや育った8cm程度のハゼが東水門(上流側)に集まっている様子が見えました。これは、小さなハゼは上流側に移動した可能性があることを示していると考えられます。
次に、マハゼの棲み処調査で得られた全てのデータを処理して、コホートの平均全長を整理してみました。すると、同じ時期に冬生まれから、春生まれまでが混在する様子が見てとれました。図中の1st:第1群から 5th:第5群は、それぞれ1月から4月生まれに相当します。また、7月くらいに見られる大型のハゼは、前年の8月位の生まれと推定されました。
このように、夏に釣れるハゼの中に、昔から言われている冬生まれだけでなく、春や初夏に生まれたハゼも混ざっていること、前の年に生まれたヒネハゼと呼ばれる群に、夏生まれがいることなどが、2019年調査結果から見えてきました。この春〜夏生まれのハゼ達は、冬をこえて次の年まで生き残る可能性があり、江戸前ハゼ復活のカギとなると考えています。こうしたハゼ達が、冬の間どこでどのように過ごしているのか、今後の調査で明らかにしていきたいと思っています。
2020年8月
マハゼの棲み処調査 第2回
マハゼの減少要因と2020年度調査の意義
東京湾のマハゼは減ってきているようです。どのくらい減っているかを船でハゼを釣った数から計算してみると、1960年代に1億匹釣られていたハゼは、1980年代に1,000万匹、2000年代には100万匹になっています。これは、東京海洋大学の工藤貴史先生がつり船に乗ったお客さんの数と、お客さん一人が釣ったハゼの数を整理した結果を使っています。1960年代には約60万人のお客さんが、一人一日150匹くらいのハゼ釣っていたのだそうです。
20年で10分の1になるという割合で減っているように見えます。この原因はなんでしょうか。単に釣り人が減っただけであれば良いのですが、一人が釣るハゼ数も50匹程度、半分になってしまいました。また、漁師さんがとるマハゼのようすを見ると、①漁業者が減った、②漁場が減った、③産卵場所が減ったなどが原因であると考えられます。こうした変化は、埋め立てなどによって生息場所、産卵場所がなくなることのほか、環境が悪化した、他の魚に食べられた、病気が広がった、エサ不足になったなどの原因も考えられます。特に、環境の悪化としては、水温の上昇(地球温暖化や都市化による)、毒性の赤潮プランクトンの増殖(最近は少ない)、水の中の酸素が無くなる貧酸素化(夏に海底付近で発生)などが主なものとして考えられます。
生息場については、ハゼの生態(どこで生まれて、どこで育つか)が深く関係しています。前回説明したハゼの育つ環境を東京湾奥の地形に重ねてみると、川や運河が入り組み、ハゼの生きる場所が複雑にネットワーク化していることがわかります。
2012年から始まった「マハゼの棲み処調査」は、こうしたネットワークをハゼの大きさを手がかりに明らかにしていこうとする調査です。マハゼは成長期には1ヶ月で1.5 cm程度大きくなります。ですから、各地で釣れるマハゼの大きさを比べることで、その移動や、産卵時期が推理できるのです。
今までのデータから、マハゼが冬に卵を生むだけでなく、初夏にも卵を生んでいる可能性があることがわかってきました。また、海の環境がきびしい場所では、運河の中の限られた場所で成長を続ける場合もあるということもわかってきています。たくさんのデータをパズルのように解きながら、少しずつ、マハゼの棲み処を明らかにして、どのように守っていくのかを考えていきましょう。
2020年6月
マハゼの棲み処調査 第1回
マハゼの生活と育つ場所
みなさんは、ハゼという魚を知っていますか?ハゼは、スズキの仲間で、日本には700種をこえるハゼがいます。主に、海の水と川の水が混ざる「汽水域」と呼ばれる場所に生息し、棒のような体をもっていて、目が体の上の方につき、海底に張り付いたり、岩のかげにかくれたりしているものが多いです。
ハゼを漢字で書くと、「沙魚」と書きます。面白いですね。「沙」のヘンはサンズイで「水」を表し、ツクリは「少ない」ですから、水の少ないところ、すなわち浅いところにすんでいる魚を表します。それを一つにしてしまった「鯊」という字もあるんです。
今日は、ハゼの中でもマハゼについてお話をします。マハゼは、漢字で書くと「真沙魚」となり、真のハゼという意味になりますから、ハゼの中のハゼという名前を持った魚です。長く生きるものでも数年、多くは1年で生まれ、成長し、次の世代に命をつなぎ、死んでいきます。急速に成長しますから、マハゼはなんでも食べます。子供の時には、エビ・カニの子供など動物プランクトンとして水中にういている小さな生き物を食べていますが、その後、砂にもぐっているゴカイや小型のエビ・カニを食べるようになり、大きくなると、アオノリなどの海そうや、他の小魚も食べているようです。また、マハゼを食べる動物として、サギなどの鳥やウナギ・スズキなどの大型の魚がいます。マハゼは汽水域の中で、他の生き物を食べ・食べられながら生きています。こうした場所のことを生態系とよび、人間と他の生き物たちが生活しているために、とても大切な場所なのです。
冬になるとマハゼは汽水の海側の海底に深い巣穴をほり、その中の天井に卵を産みます。春になって生まれた子供たちは、川をさかのぼり、汽水の上の方、すなわち川の浅いところに集まります。その後、夏になって、若い元気なハゼとなって河口や運河に下ってきて、秋なると再び、海に集まるといわれています。巣穴をほるのは主にオスのマハゼの役目で、良く見ると、成長したオスの口はスコップの様に角ばっています。
いま、こうしたマハゼの生まれる場所や時期が変わってきているようです。その実態を明らかにするための調査も行われています。みなさんも、ぜひマハゼつりをしてそのなぞ解きにチャレンジしてみて下さい。